為替

ドル円は140~150円になる? ミスター円榊原さんの過去の予想結果を検証!

 円安が進んでいます。今現在物価高が叫ばれていますが、円安は物価にダイレクトに直結するものであるため、多くの人にとって今後どうなるのか関心が高いのではないでしょうか。

 さて、ミスター円とも呼ばれた元財務官榊原英資さんも「5月中旬、米ブルームバーグ通信のインタビューで『円は年末にかけて140~150円で推移すると市場では予想されており、その水準に達する可能性は十分にある』」と発言されたことが6月10日の日経新聞の記事でとりあげられています。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00011_U2A410C2000000/

 140円~150円となるとさらに円安が進む予想になるので気になりますね。そこで過去の榊原さんの発言はどの程度の的中率だったのか、検証してみました。今回の記事のリンクは全て日本経済新聞電子版様で、その一部のみを「引用」させていただいております。

榊原英資さんの過去の発言と、その後の為替動向

 円安局面だけではなく、円高局面でも予想が的中していたか、両方の局面で検証したいため、今からざっと12年ほど前まで遡ります。

・2010年8月22日

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDF16004_Y0A810C1TCG000/

 こちらの記事では「円は対ドルで年末までに1ドル=80円を超え、1995年4月19日に付けた最高値(79円75銭)を突破してもおかしくない」と述べられています。2010年8月22日は日曜日であるため、金曜日20日のドル円の終値レートを見ますと85.61円でした。その後円高が進み、2011年3月には76.24円となることで、最高値を更新しました。ですので、こちらの予想については的中となります。

・2010年10月24日

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFZ21006_R21C10A0K15200/

 次はこちらの四者対談の記事になります。松本大さんはじめ錚々たる面々ですが、こちらの記事でも「円ドルの最高値更新は時間の問題」と述べていますね。同じ予想を繰り返されて的中しています。以降、同じ予想の記事に関しては省略します。

・2011年10月19日 12:05

 さてしばらく間が空き、その次に予想を話された時にはかわり毛色の変わったことを述べられています。為替介入に関して「うまくいくのは協調介入のときのみだ」と語られたそうです。具体的なレートへの言及はなく、かなり簡素な記事になります。この当時、日本は強力な円高に苦しんでおり、政府日銀は前年の2010年9月15日に単独円売り介入を6年半ぶりに実施しました。

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1500N_V10C10A9MM0000/

 単独為替介入を行った9月15日のドル円レート終値は85.73円、介入を行った時点では82円でした。しかし上記で紹介した2010年10月の記事で「円ドルの最高値更新は時間の問題」と述べられていたことから、この当時から榊原さんは単独介入に効果はないと考えられていたものと思われます。事実それ以降も円高は止まることはなく、最終的にこの月、日本円は最高値である75.34円を記録しました。単独介入を行って以降10円も円高になった計算です。

 一方協調介入については「2011年3月 – 東日本大震災時に発生した急激な円高(17日早朝、1ドル=76円25銭)に対する対応として、G7が協調介入を実施することに合意し、実施された結果として81円台に回復した(wikiより引用)」とあります。

 3月に協調介入が行われて81円台に回復した後10月までは円高局面が続きましたが、協調介入が行われた76円25銭とほとんど変わらない75.34円が最高値でした。

 この記事が出た10月に、長期にわたって続いていた円高局面は終わりを迎え、今日に至るまで10年以上続く円安への転換が起こりました。トレンドが見事に変わったため的中と考えます

・2013年9月26日

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFL240PR_W3A920C1000000/

 その次に具体的な為替の方向性に言及された記事は2年後に見つかりました。

 こちらでの予想は「1ドル=105~110円ということはなくなったとみている。米国が量的緩和の小幅な縮小に踏み切っても、円相場は当面1ドル=95~105円程度で推移するだろう」という内容になります。当時のドル円レートは98.97でした。今回は珍しく株にも言及されており「日経平均株価が1万5000円を超えるのは時間の問題だ。年末までに1万6000~1万7000円まで上がることもありうる」と発言されています。結果はどうなったでしょうか。

 まず為替については、確かに翌月の10月はかなり小動きとなり96~98円のレンジ相場となりました。しかし翌々月11月に102.6円、さらに12月には105.4円と、105円を上回ってしまいました。その後は下がり、2014年の8月までは予想通り105円を上回ることなく推移しました。ほぼ的中ではありますが、一瞬だけ105円を上回ったタイミングがある以上予想は完全には的中ではありません。

 株についてはご存じの通り大きく上げ、この年の終値は16291円であったため的中です。

・2014年5月22日

https://www.nikkei.com/article/DGXNASFL220JX_S4A520C1000000/

 この記事でも、為替と株両方の予想をされているようです。

 為替については「円は当面1ドル=100~105円の範囲で推移し、来年前半に米国が政策金利を引き上げるころには105~110円まで切り下がるのではないか。日本経済も堅調なため、大幅な円安はない」株については「1~2年以内に2割程度の上昇余地があるとみている」

 実際のところを見てみましょう。5月22日のドル円の終値は101.72円。その後、確かに8月頃までは105円を超えずに推移していましたが、翌年を待たずに10月には110円を突破してしまいました。予想されていた来年前半にあたる2015年6月には125円を突破しています。よって円安の方向性としては的中ですが、程度とスケジュール感では的中せずといったところでしょうか。

 株についてはこの記事が出た五月を底値にして、予想通り切り上げています。この月の終値は14632円でしたが、2015年6月には20952円まで上がりました。2割よりは大きな上がりですが、方向性としては正しく、見事に的中されたと考えています。

 ここまで見てきて感じたことですが、方向性についてはかなりの確率で正しい分析をされているように感じます。素晴らしいですね。

・2014年10月3日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL0302D_T01C14A0000000/

 しかしこちらの記事では検証を始めてからはじめての方向性の誤った分析をされているようです。このように予想されていました。「当面は1ドル=107~112円程度の範囲内での推移が続くとみている。市場には、この流れで115円や120円まで一気に円安・ドル高が加速するとの声も聞かれるが、私は懐疑的だ」

 10月3日の終値は109.75円。その翌月には118円、さらにその翌月に120円を突破したため、大きく分析が外れたように思います。

・2015年6月2日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL02H6Q_S5A600C1000000/

 次の予想でも、やはり円安進行には懐疑的なようです。

「125円を超えて一段と円安が進む余地はあまり残されておらず、130円台を付けることもないとみている」

 実際にはどうなったでしょうか。その後125.8円までしか円安は進まず、その後頭を押さえられ130円台をつけることはありませんでした。円安は進むことなく、翌年100円を割るほどに円高が進行したため、こちらの分析については見事的中となります。

・2016年6月10日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HMW_Q6A610C1000000/

 こちらの記事では「1ドル=105円55銭を超えると、100円までの上昇も視野に入る」「積極的な金融緩和策を打ち出せば若干円安に振れるだろうが、結局は円高・ドル安が定着していきそうだ」「私も現役時代は為替介入をしてきたが、相手国の合意なしには絶対介入できない。今のところ米国は為替介入には否定的で、現時点では介入の可能性は低い」

 とおっしゃられていますね。まず100円までの上昇について。この時のドル円レートは106.96円。そして6月の後半には100円を超える円高になっています。見事に的中ですね。

 次に、緩和策で円安に振れるが、結局円高が定着というコメントについて。実際に言及されたとおり、2016年の7月に日銀は追加金融緩和を賛成多数で決め、株価指数連動型のETFの買い入れを年3.3兆円から6兆円に増額しました。さらに9月にも新たな緩和の枠組みを発表し、118円まで円安になりました。しかしそれは一時的なことで、長期的には2021年の年始103円のレートまで長期にわたり緩やかな円高ドル安トレンドが定着しました。よってかなり正確に的中したように見えます。

 最後に為替介入については、実際日本では2011年を最後に今のところ行われていません。よって正しい分析をされています。特に相手国の同意なしには絶対に為替介入できないという話は今の為替動向を予想する上でも参考になる情報と言えるでしょう。実際に介入の実務をされていた方がこのように教えて下さるのは、個人投資家にとって非常にありがたいことですね。

・2017年4月14日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL14H2Y_U7A410C1000000/

 今度はこちらの記事。「今年後半には厳しい現実に直面し、円は日米金利差の拡大観測の後退などから1ドル=100円近くまで上がると見ています」

 この日のレートは108.61円。2017年の終値は112円台であり、それまでも100円に至る局面はなかったため、的中せずです。

 方向性としては2021年年始の103円まで円高トレンドが続いたため、大きく間違ってはいませんでしたが、時間軸の観点からは正しい分析ではありませんでした。

・2018年4月13日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL13H1Z_T10C18A4000000/

 こちらは「米国のドル安志向は本気、円は100円目指す」という記事になります。一貫していますね。円高予想。為替は相対的なものであり、ドル円は相手国の意向がいかに強い影響を及ぼすかということを何度もおっしゃられています。

 また「ただ円が100円を大きく超えていくとまでは想定していない」ともおっしゃられています。記事の当時の為替レートは107.33円。ここから2021年初頭の103円台まで円高トレンドで、100円を超えることなくトレンドが転換しているため、両方とも的中されていますね。しかしこの記事が出た後114円まで円安が進んだ局面があったため、短期目線で見ている方からするとはずれたように映ったかもしれません。時間軸が記事では述べられていないようですので、どのような時間軸でお話しされたのかは気になるところです。

・2018年12月13日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL11HJW_T11C18A2000000/

 次はこの記事です。4月13日で円高を予想され、上で述べた通り一時的に円安に逆行している中でのインタビューになります。

 「円は1ドル=110円超えを試す展開になりそうだ」「日米の株式指数がピークに来ている。一段の上昇は見込みにくく、調整局面に入っていく公算が大きい。あくまでリスクシナリオだが、円が1ドル=100円に近づく可能性も否定できない」

 ずっと同じことをおっしゃっていますね。この記事が出た当時の為替レートは113.62円。12月中に110円超えを達成しているため、こちらは的中。一貫して100円接近の話もされているので、確定ではないですが4月の発言も長い目で見た話なのかもしれません。

 株式指数のピークについては微妙なところですね。2019年にクラッシュはありませんでした。しかしながら、一段の上昇は見込みにくいという発言はその通りで、日本株は2018年の高値を超えられず、調整局面に入っていく公算が大きいの言葉通り、2020年にはコロナショックを迎えるのでした…大きな方向性としてはかなり正確な分析をされているように思えます。

・2019年6月21日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL21HN6_R20C19A6000000/

 ずっと同じことをおっしゃっていますね。「円相場は来年初めにかけて緩やかに1ドル=100円に迫っていく」しかしここでようやく時間軸が出てきました。来年初めにかけて。皆さんご存じの通り、2020年の初期にコロナショックがありました。この時、一時的に101円台をつけるほど円安になりましたので的中となるかと思います。しかしコロナショックの名前の通り急激な変動でしたので、緩やかかどうかは疑問が残りますが…。

 その後いったん戻した後も2021年の年始まで緩やかに円高トレンドは継続したため、方向としては正しいと思われます。しかし「既に過去最高値圏にある米株価などがここからさらに大きく上昇することは見通しにくい」との予想については、2020年にコロナショックで暴落はしたものの、それまではNYダウは史上最高値を更新し続けていました。アメリカ株については的中とまでは言えないと思います。

・2019年11月29日

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL27HP6_Z21C19A1000000/

 同じような予想ですが、新たな時間軸が出たため検証します。2020年も円高という内容で「円相場は当面は1ドル=105~110円のレンジ内で推移するだろう。1年を通してみれば緩やかに円高・ドル安が進み、100円に近づく場面があると予想する」と発言されています。実際はどうなったでしょうか。

 年始は108円台から始まり、年末は103円台で終わりました。途中コロナショックがあり大きく動く場面がありましたが、全体としては緩やかな円高となりました。こちらも正しい分析をされたと思われます。

・2022年1月12日

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA30D740Q1A131C2000000/

 さて、次に榊原さんの予想が掲載されたのはなんと2022年1月。少なくとも日経電子版では2020年も円高という予想を最後に、この時まで為替の数字を伴った予想の記事が見つけられませんでした。2020年の予想が最後ということは、2021年の予想を日経ではされていないことになります。ですので、2021年年始から始まった円安へのトレンド転換については予想が行われていないことになり、分析が正しかったかどうかの検証ができません。

この記事では大きく意見が転換しており「22年末から23年にかけて1ドル=130円程度まで円安・ドル高が進む可能性がある」と発言されています。記事掲載時のレートは114.63円。なんと三か月後の4月には130円を突破してしまいました。時間軸はずれましたが、相変わらず方向性としては正しい分析をされていますね。

「為替介入は他国と協調しないと十分な効果が出ない。米国の政策をみると引き続きドル高を志向しており、介入という手段での円安是正は困難だろう」とも発言されています。11年前の2011年の記事と全く同じ内容ですね。また、アメリカの意向が大きいということも繰り返し発言されています。また「円高が国益である」という認識に転換すべきとの発言も印象的でした。

検証結果

 検証したところ、正しい分析の黄色いマーカーを引いた回数が15回、正しくない分析の青いマーカーが5回となりました。正しい分析をされる確率は75%、方向性の予想はさらに正確な印象を受けました。

これからどうなるのか? 榊原さんのこれからの予想

・2022年4月14日

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00011_U2A410C2000000/

 ここからが本題となります。では、これからの方向性はどうなるのでしょうか。この記事での予想は「マーケットでは今年末から来年にかけて140~150円になるとの予想もある。米連邦準備理事会(FRB)が利上げしているだけでなく、欧州中央銀行(ECB)も利上げ局面に入ろうとしている。日銀は黒田東彦総裁の任期中は緩和を続けると思うので、円安がかなり進んで140円というのは十分あり得る」「介入は難しい」金融緩和については「140円とか150円になった時は変えないといけないというプレッシャーが高まってくるだろう」

 掲載時のレートは125.86円。現在の為替レートは134.36円なのでまたもや方向性として正しい分析をされていますね。140円というのは十分ありうると発言されています。可能性として考慮しておいた方が良いかもしれません。金融緩和策に目立った変化がいつみられるかが大きなポイントになりそうですね。

 ・2022年6月10日

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00019_Q2A610C2000000/

 こちらの記事では「円は年末にかけて140~150円で推移すると市場では予想されており、その水準に達する可能性は十分にある」と発言された旨が紹介されています。現在レート134円に対して、まだまだ開きがありますね。

 検証結果として榊原さんの分析は75%の確率で的中し、かつ方向性の分析はさらに正確であるという結論となっています。よって榊原さんの予想の正確性の観点から今後の動向を考えると、まだ円安が進む可能性は同様に8割ほどの確率であるのではないかと考えております。もちろん時間軸をはじめ予想が当たったかどうか、解釈はひとによって異なるとおもいます。皆さんはどう思われますか? 

まとめ

 円安は値上げラッシュやインフレの大きな要因になります。すべての日本人にとって無関係なものではありません。もし今後も円安が続くのであれば、さらなる値上げ、インフレが予想されます。今後もこのような、将来を予想する上で役立つ情報があれば発信していきたいと思いますので、よろしければまた訪問頂けると幸いです。

 今回は簡易に分析を行えるよう、予想のみを記事から引用し、理由付けに関しては簡易なものにとどめました。具体的な予想の理由、分析の理由については記事本文で詳しく述べられているため、気になる方は日経電子版で詳しく記事を読まれると非常に勉強になると思います。

また当サイトに掲載されているコメントは、あくまで個人的見解に基づくものであり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。また100%正確であるとは限りません。投資判断をされる際はくれぐれも自己責任でお願い致します。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

アイキャッチ画像はStuart BaileyによるPixabayからの画像

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